野村仁
1945年兵庫県生まれ。
1969年京都市立芸術大学彫刻科を卒業、大学修了制作でダンボールの風化、重量による崩壊の過程を写真に記録する「Tardiology(遅延論)」を発表、本作品に続き、
昇華するドライアイスと沃素を対象とした記録から「道路上の日時(time on acurved line)」を制作する。
1970年代より、空、宇宙、DNAを対象として、映像、音などの媒体にて作品を制作。
太陽や月の動きを撮影した写真をもとに宇宙の現象を視覚化する作品を発表。「‘moon’ score」は代表作の1つである。
1988年より京都市立芸術大学彫刻科にて教鞭をとる。
Tardiology
1969年、京都市立芸術大学の卒業展示「美大作品展」は京都市美術館(現:京都市京セラ美術館)で行われました。
野村は、ダンボールの板で組み上げられた高さ8メートルに及ぶ巨大な作品を発表しました。
その構造物が、時間の経過と共に崩壊していく様子を撮影した写真が「」として残り、その後の写真も用いた
作品の原点となります。
私感
「Tardiology」は彫刻として製作され、野ざらしにされ自重でつぶれていく過程を写真として残す、という作品でした。
彫刻科に在籍していた野村は、「モニュメンタルな永続性のない彫刻作品は可能か?」という問いを持ち、製作に挑んだといわれています。
「徐々に崩れていく」作品には、時間の経過や目に見えない重力を表しているとも言われています。
しかし、例えば、ある日、崩れている途中の作品を鑑賞したとしても、その数分の間に崩壊を認識できるような速度ではなかったと思いますので、
鑑賞者はいつも、ただ「崩れかけた段ボール」の瞬間を捉えてしまいます。
これは、時間が固定された物体的な作品の持つジレンマであり、(それゆえ、モニュメンタルな永続性があるのだと思いますが)それを突破するために、
連続して写真に収め、写真作品として発表されています。
その他の代表的な作品。[`birds' score]では、渡り鳥を写真にとり、それを五線譜の上に合成して、譜面を製作し演奏したものになります。
乱雑に飛びかう渡鳥も、一羽一羽が一定の距離をとり、自然と距離を保っているそうで、音楽として破綻しておらず、秩序があるように聞こえます。
一方で立体作品も製作されておりました。
1989年に発表された「宇宙は収縮に転ずるか? 」は、宇宙の中に小さい宇宙が次々に生まれていく宇宙論(インフレーション理論)にインスパイアされた作品です。
吹きガラスを使った透明な立体なのですが、対象への畏怖を感じるような、(乱暴に扱うと壊れてしまいそうな、、というと、とても陳腐になりますが、)
美しい作品です。
映像や写真、音楽と形式は様々ですが、自然(重力や時間の経過)とその作用(人間との関係性)を問いただすような作品群です。
和菓子のコンセプト
和菓子では野外展示され、時間の経過を感じさせるものとして、クリスタリゼした木の芽を木葉に見立てて散らしています。
また、土台部分は、目に見えない重力を表すために、密度感の違う3種類の素材を重ね合わせています。
それぞれ、「しろあん 」をもとに、異なった製法で製作しており、下から羊羹、浮島、きんとん、となっております。
羊羹の部分は最も密度感があるように濃厚なお味に仕上げております。
浮島は、和菓子の製法で蒸して作るお菓子です。卵とお米の粉を使い、フワッとした食感になります。
上のきんとんは、しろあんをそぼろ状にしたものです。
展示と販売
京都市京セラ美術館ミュージアムカフェ ENFUSE様、京都市京セラ美術館(京都市美術館)様にご協力いただきました。
京都市京セラ美術館 コレクションルーム秋の展示期間中、ENFUSE様にてご提供させていただいております。
京都市京セラ美術館
[2023 秋期]コレクションルーム 特集「Tardiologyへの道程」
※観覧料等詳細は、美術館サイトにてご確認下さい。
https://kyotocity-kyocera.museum/exhibition/20230310-20240225
*参考資料
豊田市美術館(https://www.museum.toyota.aichi.jp/)
Japanese Art Sound Archive(https://japaneseartsoundarchive.com/jp/texts/)
ART COURT Gallery(https://www.artcourtgallery.com/)
京都国立近代美術館 Re:スタートライン(https://www.momak.go.jp/Japanese/exhibitionarchive/2023/453.html)