Japanese painting × Wagashi

Itakura Seiko【Harusame】

板倉星光『春雨』 コラボレーション和菓子

板倉星光

板倉 星光(いたくら せいこう、1895年12月2日 - 1964年12月17日)は、日本画家。本名は捨五郎。
美人画や花鳥画などを得意とした。
京都生まれ。1917年、京都市立絵画専門学校を卒業。菊池契月に師事。

『春雨』


本作品も春雨のあがった瞬間が描かれ、風情を感じさせる作品にしている。
春雨に花弁は池に落ち、葉の先につい今しがたまでの春雨の名残をとどめる雫を描く。

和菓子のコンセプト


全体の雰囲気は、花びらの浮かぶ水面を。
3本の線は渡廊下を。
桜と木の芽の寒天は葉桜に残る春雨の雫を表しております。
また、桜と木の芽の寒天が若干ですが塩が入っておりますので、中のあんこは 爽やかに春を感じさせるゆずの風味をつけております。
*今回、作品画像などが京都市京セラ美術館のHPなどには掲載されておりません。
是非展示会場でご覧くださいませ。


展示と販売

京都市京セラ美術館ミュージアムカフェ ENFUSE様、京都市京セラ美術館(京都市美術館)様にご協力いただきました。
京都市京セラ美術館 コレクションルーム春期の展示期間中、ENFUSE様にてご提供させていただいております。

京都市京セラ美術館 春期 特集「絵になる京都」 
2022年4月29日(金・祝)~7月10日(日)
※観覧料等詳細は、美術館サイトにてご確認下さい。https://kyotocity-kyocera.museum


板倉星光と作品についての私感

板倉星光は1895年、京都の海産物問屋近江屋の当主、四代目板倉清兵衛の三男として生まれ、何不自由なく洛中の裕福な家庭で育ったそうです。
京都市立美術工芸学校から京都市立絵画専門学校に入学。若干21才にして1915年の第9回文展に「露」が初入選して画壇へデビューされました。
当時円山派の山元春挙が後進の指導にあたっており、丹念な風景描写や近代的な洋画の手法に影響を受けます。
卒業後、四条派の画家で、歴史画や人物画を得意とする菊池契月に師事しました。
文展から帝展へ順調に出品を続け、1929年34才の時、第10回帝展にて「春雪」が特選、続いて11回帝展では「春雨」が特選となります。
その後も順調に出品を続け目黒雅叙園の襖絵を制作するために東京を訪れるなど精力的に活動されました。
戦時下では冨山に疎開し戦後も精力的に日展などに出品を続けました。
1964年 69才でお亡くなりになられております。

始めて「春雨」を見た時には、桜と女性というよくあるモチーフが綺麗に描かれた作品、という印象を受けたのですが、それだけではない違和感を感じました。
「春雨」というタイトルで直接的に雨を書くのではなく、浮かぶ花弁や葉桜の雫を描く、それは日本的で情緒的な良さもありますが、 どうもそれだけではないようななんとも言えない気持ちでした。
なぜ、満開の桜ではなく葉桜を描いたのか、なぜ女性は渡廊下に立っているのかと色々な疑問が湧いてきました。

1929年の「春雪」は、その年の始めの雪の日に没した愛娘への哀惜の念が込められていると言われているそうです。
廊下を歩く女性の後ろには雪の積もるお庭が描かれいます。
続いて、次の年に発表された「春雨」は雨に打たれて散る桜が描かれ、その側には渡廊下に佇み水面を眺める女性が描かれております。
「春雪」は元気に歩く姿、「春雨」は時が立つのを眺めている姿なのです。
「春雪」は、元気な頃の姿、在りし日の姿をただ焼き付けるかのような強い悲しみを感じます。
一方「春雨」の桜が散り、緑の葉がでてきて一年が過ぎる、その様子を和やかに眺める様は、まるで現世の移ろいを眺めているかのようです。
突発的な運命で散ってしまう桜、その後も粛々と過ぎていく現世の時間=残された私たちの時間、時が止まった美しい姿のまま水面を見て微笑む娘。
「春雪」のストレートな悲しみから「春雨」のせめてこの世を見て微笑んでいてくれるだろうかといったような希望まで、、、 まるで星光の心境の変化を表しているかのように感じます。
直後の「麗春」などを合わせて、この後も舞妓や女性をモチーフに美しい作品を残しておられますが、 この2作品の鬼気迫るような強烈なパワーは、画家が人生のうちの一つの時期にしか描き得ない特別なものだったのではないだろうかと感じます。

2022年度春のコレクションルームでは「春雨」が展示されています。
いつか「春雪」と並んで展示されているところを見てみたいです。

*今回、板倉星光氏を調べるにあたり、医療法人 創志会 板倉医院様にお世話になりました。
星光氏の息子様がお医者様になられ、現在も御子息の方が開業されておられる医院です。
待合室には星光作品が展示されており、受け付けの前には季節によって取り替えられる掛け軸が飾られています。
資料といたしましては、朝日町立ふるさと美術館にて平成8年に「特別企画 板倉星光展」が行われた際のパンフレットをお借りいたしました。
そこに掲載されておりました目黒雅叙園美術館 部長 森友三雄様の寄稿文を参考にさせていただいております。
ありがとうございました。